その女性の首には、
マリア像が彫られた小さなペンダントと、
ホタテ貝を中心に据えたクロスが
慎ましやかに光っていた。
屈託のない笑顔の奥には、
芯の強さと共に、何かがうっすらと影を落としているのが分かる。
きっと、誰も気づかないくらい小さな影だけれど。
「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」
(El Camino de Santiago)は、
フランスからスペインにまたがる、800~900kmの長い道のり。
1日平均30km歩くとすれば約1か月かかる。
1000年という悠久の時の流れの中で、
この道を、数えきれない程多くの人が、
それぞれの「荷」を負って、歩いてきた。
その女性は5年前、
母の臨終に立ち会うことが出来なかったと言う。
大学を一年休学し、海外で働いていたため、
間に合わなかったのかもしれない。
深い後悔の気持ちを十字架として背負い、
彼女は自分を見つめ直す旅に出た。
バックパックを背負い、
今なら自転車やバイクや電車などを利用する
観光目的な巡礼者が多いこの道のりを、
忠実に、徒歩だけで、一人で一ヶ月歩き通した。
あれから時が経過し、
就職して立派な社会人になった今、
彼女の原点はやはりサンティアゴ・デ・コンポステーラにある
という。
何かあれば、
必ずそこに戻ってこれるように、
旅の続きを示す印を残してきたのかもしれない。
現実的なものか、精神的なものかは分からないけれど。
表面的に分かる、分からないは別にして、
人は皆それぞれ何かの「荷」を負って生きている。
そしてそれを乗り越えようと、
一人静かに努力している人は美しい。
道(Camino)は、人生であり、
人生は、道(Camino)。
彼女にとってcaminoを進むお守りが、
巡礼中出会った老婆に貰ったペンダントと、
ホタテ貝をあしらったクロスであるように、
人は、何かに守られて生きている。
その「何か」を探し続けることが、
きっと神様から与えられた大きな宿題。
ゆっくりでも、早くても、
歩けるうちは、歩き続けていこう。
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