(心で見た景色を言葉にしよう 〜 辺境のソーシャルTips 第二回目)
人は居心地の良い環境を好む。
僕も常日頃、自分にとって居心地の良い音楽を聴き、好きな文体の本を読み、居心地の良い人たちと一緒にいる。そして、その居心地の良い環境というのは、人に安心感を与える。何も間違ったことではないし、それは人間が持つ自然な性質だ。
しかし、組織やチームを導くリーダーはそうあるべきではない。僕が今まで出会ってきたリーダーと呼ばれる人たちは、居心地の良いところではなく、むしろ居心地の悪い環境に進んで身を置き、進んでリスクを取る人たちばかりだった。そのことについて長い時間を掛けて深く考えてみた結果、たどり着いた結論は、その仕事の内容にあった。
リーダーの最も重要な仕事かつ唯一の仕事は「決定を下す」ということだったのだ。
人は過去を振り返ることはできても、未来を見ることはできない。未来の自分から今の自分に対して、こっちの決定の方が正しいよ、とアドバイスを送ることなどできない。つまり、組織を率いて進路を決定することは、極端なことをいうと常に「一か八か」なのだ。もちろん、その決定が成功することもあれば、失敗することもある。失敗したら、誰かをがっかりさせるかもしれないし、チームのメンバーに辛い思いをさせるかもしれない。それゆえ、批判の的になることもある。人に嫌われたり、評価の的になることは誰にとっても嫌なものだ。でも、リーダーは常にそういった環境に自分を晒さなければならない。
故に、リーダーと呼ばれる人たちはその人格形成のプロセスにおいて、意識して「居心地の悪い場所」に進んで身を置く努力をしてきた。知り合いが一人もいない場所に出掛け、発言し、初対面の人たちに覚えてもらう。その中で自分の居場所(プレゼンス)を作り、その場所(コミュニティ)の発展に寄与する。あるいは、必要なことであれば、苦手な分野であったとしても、その分野の学問の門をたたき、一生懸命に学ぶ。要するに、自分の決定の精度を上げるために自己研鑽を欠かさない。学んでは試し、学んでは試す。それを千本ノックよろしくひたすら積み重ねることによって、成功も失敗もひっくるめて経験値が上がり、それがその人の財産になる。
馬鹿にされる、無視される、傷つくことを恐れて発言しない、あるいは誰かに気を使って動かない人はリーダーになることはできない。会社の同僚や後輩など、居心地の良い場所にいつも身を置いている人間に大きな山は動かせないし、広い世界を見ることはできない。動くから道は開け、殻を破るからそれ以上の世界を見ることができるのだ。その経験が正しい決定を下すための土壌となる。
もしあなたが若くて、これから組織のリーダーを目指したいのであれば、自分がこうなっていないか自問自答してみてほしい。「こういう人はリーダーになることはできない」のチェックリストだ。
・小さいコミュニティで必死になってプレゼンスを保とうとしている
・人に偉そうに言うことによって承認欲求を満たしている
・傷を舐めあって目先のことしか考えてない
・表だけ繕って、その場をやり過ごそうとしている
・傷つきたくない
・「自分らしく」を盾にして努力をしない
なぜそのように言うことができるのか。その理由は、
・世界が、自分の見えている世界の大きさ以上、広がらない
・努力をしているつもりでも、努力の総量が圧倒的に足りない
・己の弱さを定量評価できない
・自分のことで精一杯で、人に愛情を注ぐことができない
・己をさらけ出すことができず、嘘で塗り固められた人生を送るしかない
・弱さ、できないことを言い訳にする
他にもあるが、こういったところだろう。
一方、リーダーになる人に必要なスキルは以下のとおりだ。
・他責にせず、自責で物事を切り開く力
・誰よりも努力を重ね、学ぶ力
・常に居心地の悪い環境に身を置く覚悟
・自分の弱さを認め、公表し、長所で圧倒的に貢献できる力
・すべてに対して愛情をもって寄り添うことができる強さ
・成功したら人を誉め、失敗したら自分が責任をとる器の大きさ
動くことや努力をすることは、少しの勇気と決意があれば誰にでもできる。一つひとつの小さな積み重ねの結果として、その人は尊敬されるリーダーになることができる。
ちなみにこのコラムは、どちらかというと、これからリーダーを目指す若い人に対して、その心構えとして、僕が尊敬する人たちの行動モデルを観察して学んだことを書いた。
補足すると、組織全体として大切なのは一人の有能なリーダーだけではなく、周りの環境、つまりリスクある決定を支持する環境(心理的安全性)と、一方で、目標に届かない、利益が出ない、事業ベースで赤字など、失敗した時に、即座にピボットできる組織としてのフットワークの軽さ、時として冷徹かつ率直な決定ができるリーダーの決断力、そしてそれに対して自由闊達に意見できる社内の風通しの良さも必要である。そういう組織を作るためには、普段からいかに良質でオープンなコミュニケーションができているかが重要だ。
このコミュニケーションについてはまたの機会に書いてみたい。